『論語と算盤』 ~PTA進路研修会での校長挨拶から①~
7 月3日から新紙幣が発行されます。1 万円札の顔は渋沢栄一。3年前に大河ドラマを楽しまれた方も多いでしょう。私もその一人です。当時は人物についていろいろ知りたく思い、著作物もいろいろ読みました。その中でも私のお勧めは『論語と算盤』です。学校の図書館に、ちくま新書版があります。
実は今朝(6月29日)の新聞に、前日本代表チーム監督・日本ハムファイターズCBO(チーフベースボールオフィサー)の栗山英樹氏が監督時代、大谷翔平選手をはじめとする若手選手にこの本を渡して読むことを勧めていた、というコラムがあって、大変うれしく思いました。
渋沢栄一の本は経営者や起業家が読むもの、と思われる方は多いかもしれませんが、実は困難な時代を生き抜くための先人の知恵や理想のリーダー像など、現代的な課題を解決するヒントのようなものがたくさん詰まっている、と私は思っているのです。
特に今日お話したいのは、渋沢栄一の高い志と、二つの対極にあるものを両立させる力です。
ドラマで若き日の渋沢栄一は、何か方向性が定まらず、バタバタしている印象がありました。熱心に倒幕運動に参加したかと思えばいつの間にか一橋慶喜に重用されている。しかし、高い志はあった。それは日本を強く豊かな国にするということです。倒幕も攘夷もそれは目的ではなくて高い志を実現するための一つの手段であった。高い志があったからこそ、柔軟に、したたかに幕末の混乱期を生き抜いたともいえるでしょう。
また、経済と道徳、公益と私益、競争と協調といった、二つの相反する価値観を両立させた実力は見事なものです。時に厳しく、時にすべてを包容し、日本の経済の仕組みを次々に新しくしていきます。ここにも強い信念と柔軟性、発想力、そして周囲を巻き込むリーダーシップとすべてを併せ吞む人間力を感じます。
思えば若き日の渋沢栄一は論語をしっかりと学び、家業の商売にも全力で取り組み、一橋家に仕えた時には広い世界を相手にするためにパリ万博にも赴きました。
強く、しなやかな渋沢栄一の生き様から私たちが学ぶことは多いと思います。