卒業証書授与式「式辞」

3年生が立派に巣立っていきましたお祝い卒業キラキラ

式辞を送りました。

式辞
 校内の杜に、春のやわらかな息吹を感じる今日の佳き日に、麗風会会長・栗原美恵子様、PTA会長・八坂剛士様をはじめ、多数のご来賓のご臨席を賜り、「第七八回卒業証書授与式」をかくも盛大に挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員一同にとりましても、この上ない喜びでございます。
 心より、感謝申し上げます。

 ただ今、卒業証書を授与しました卒業生の皆さん、ご卒業、誠におめでとうございます。三年間にわたる皆さんの弛まぬ努力と著しき成長に、心から敬意を表します。

 思い返せば、今からおよそ六年前、新型コロナウイルス感染症への対応が始まりました。今となっては遠い記憶のようにも感じられますが、皆さんにとっては、中学校から高校へと進む、人生の大切な時期と重なっておりました。思い通りにならない日々の中で、どれほどの思いを抱えてきたことでしょう。

 「疾風に勁草を知る」――激しい風が吹いてはじめて、強い草の存在がわかる、という言葉があります。苦難の中にあってこそ、人の真の強さと輝きが現れます。あの困難な経験が、皆さん一人ひとりをたしかに成長させてくれた、と私は確信しております。

 卒業生の保護者の皆様、お子様のご卒業を、心よりお祝い申し上げます。長年にわたり、PTA会員として本校の教育活動に温かいご理解とお力添えをいただきましたことに、深く感謝申し上げます。

 さて、卒業生の皆さん、これからをいかに生きていくか――今日はそのことについて、申し上げたいと存じます。

 皆さんの強みは、本校での学びを通じて培った、様々な資質と能力にあります。各教科で修めた知識はもとより、粘り強く、あきらめず、最後までやり遂げる力――それは、人として大きく成長した証に他なりません。

 その力を土台に、自らの夢や希望に向かって何事にも挑戦できる。たとえ一度うまくいかなくとも、何度でも立ち上がれる。それが皆さんの大きな可能性です。

 しかし同時に、今の皆さんは「まだ何者でもない」とも言えます。これは決して弱みではありません。むしろ、これから何にでもなれるという、自由の証です。

 ここで、私自身のことを少しお話しさせてください。

 私は大学を卒業後、民間企業に就職しました。しかし、「数学の教師になりたい」という思いが心の中にありました。やがてその思いや周囲の事情もあり、会社を辞めて教員採用試験を受ける決意をしたのです。

 当時は結婚して小さな子どももおり、世は「就職超氷河期」と呼ばれた時代でした。そのような状況で会社を辞めるなど、周囲のほとんどが反対し、賛成してくれる友人はいませんでした。

 そのとき、高校時代の恩師に相談しました。その先生は、こう言ってくれたのです。「そんなにやりたいんだったら、頑張れ。お前ならいい教師になれるよ。」――そして、こう続けました。「ただし、覚悟はあるのだろうな。」

 「覚悟」――その一言は、重く、しかし温かく、私の胸に深く刺さりました。妻もまた、賛成して応援してくれました。素晴らしい妻です。
 応援してくれる人がいたからこそ、私は精一杯頑張ることができました。そして教師になって、本当によかったと思っております。今日こうして皆さんの卒業を祝福できることが、この上ない幸せです。

 まだ「何者でもない」皆さんは、これから様々な経験を積む中で、さらに大きく成長していきます。今は意識していなくても、いつかふと「これが、自分の本当にやりたいことだ」と気づく瞬間が訪れるかもしれません。

 スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式においてこう述べました。「一番大切なのは、あなたの『心と直感』に従う勇気だ。なぜなら、あなたの『心と直感』は、あなたが本当は何になりたいのかを知っているから」と。

 哲学者・内田樹氏は、このジョブズの言葉を受けてこう言います。ここで大切なのは「心と直感」そのものではなく、「それに従う勇気」である、と。なぜ勇気が必要か。「本当になりたいもの」に向かおうとすると、周囲のほとんどが反対するからです。みなが賛成してくれるなら、勇気など要りません。 「そんなことは止めろ」と言われるからこそ、それに抗うために勇気が必要なのです。

 私自身の経験からも、この言葉には深く共感するところがあります。「これをやってみたい」と思っても、現実を前にすると躊躇することは少なくありません。自分の心と直感に従う勇気は、容易には出てこないものです。

 保護者の皆様、もしお子さんが「こうしたい」と打ち明けてきたときは、どうか温かく背中を押して、応援してあげてください。親からのひと言が、お子さんの人生を大きく動かすことがございます。

 人生は、決して平坦ではありません。喜びや楽しさがある一方で、悩み、立ち止まることもあるでしょう。最後は、勇気と覚悟をもって自分で決める――それが自分の人生です。しかし、その前に誰かに相談できるとよいですね。

 迷ったとき、困ったときは、いつでも相談しにおいで。一女の先生方は、いつも皆さんの味方です。応援してくれる人がいれば、また一歩踏み出す力が湧いてくるでしょう。
 ゲーテはこう言いました。「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道が見えてくる」と。言葉は、苦しいときに心を支え、勇気を与えてくれます。どうか、自分を信じてください。

 本校の卒業生は、皆さんを加えて三四、九三三名となりました。およそ三万五千人の先輩方が、今この社会を力強く支えています。皆さんも今日から、その誇り高き仲間の一員です。卒業生同士のつながりを、これからも大切にしてください。

 日本は「課題先進国」とも称され、超高齢社会・人口減少・産業構造の変化、そしてAIをはじめとする技術革新が急速に進展しています。これからの時代を切り拓き、次の世代を支えていくのは、他でもない皆さんです。ともに歩んでまいりましょう。

 結びに、本日こうして皆さんの門出を祝福できますことを、校長として、そして一人の教育者として、深く感謝申し上げます。ランチミィーティングはとても楽しかった。皆さんとともに過ごしたかけがえのない日々に、心より感謝いたします。

 卒業生の皆さんの、これからの着実で誇り高い歩みを、心よりお祈り申し上げまして、式辞といたします。

 令和八年三月十七日
 埼玉県立浦和第一女子高等学校長
 山﨑 正義