6/1 朝礼・校長講話「あなたの脳は、あなたをだましている」

 【昇降口下の紫陽花】

今日は6月朝礼晴れ
みずみずしい新緑に包まれた5月が颯爽と過ぎていきました
校内の紫陽花がきれいに色づいていますキラキラ

校長講話は、「あなたの脳は、あなたをだましている」
私たちは、ときとして不合理な選択をしてしまうことがわかっています
生徒の皆さんには、自分の頭とうまく付き合って、勉強もうまくなって欲しい!
参考図書は、ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」ハヤカワ

みなさん、おはようございます。
突然ですが、問題です。よく聞いてください。よいですか。では、

Q バットとボールを合わせると1100円です。バットはボールより1000円高い。ボールはいくらでしょう?

頭の中に、すぐ「100円」という答えが浮かんだ人はいますか?

実は、正解は 50円 です。

「100円」と答えた人、安心してください。ハーバード大学の学生でも半数以上が同じ間違いをしました。これは頭が悪いのではありません。脳の仕組みそのものの話です。

●システム1とシステム2
今日は、この本、認知心理学者のダニエル・カーネマンによる「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」をもとにお話しします。とても面白いので、オススメです。ダニエル・カーネマンは、専門は意思決定論、行動経済学、2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。

このダニエル・カーネマンは、私たちの思考には2つのシステムがあると言いました。

一つは 「システム1」―― ファスト思考。速い思考
瞬時に、自動的に、ほとんど無意識に働きます。
例えば、「1+1は?」「朝のSHRで担任の顔を見て、機嫌悪そうだな、危険を感じる」、そういった判断です。エネルギーをほとんど使いません。そして、私たちの日常の選択の大半は、実はこのシステム1が行っています。

もう一つは 「システム2」―― スロー思考。遅い思考。
論理的に、じっくりと、意識的に考えます。
複雑な計算、慎重な判断、新しい概念の理解。これがシステム2の仕事です。しかし、疲れる。時間がかかる。だから脳はできるだけこれを使いたがらない。

先ほどのボールの問題で「100円」と答えてしまったのは、システム1(速い思考)が「1100円と1000円から100円っぽい」と瞬時に結論を出し、システム2(遅い思考)がそれを検証しなかったからです。

●私たちが気づかずにハマっている「罠」
カーネマンはシステム1が引き起こす、いくつかのバイアス(思考の歪み)を明らかにしました。みなさんの学習にも、深く関わるものを三つ紹介します。

① 「わかった気」になる罠 ―流暢性の錯覚
教科書を読んでいて、「あ、わかった」と感じたことはありますか? でも、いざテストで問われると書けない。

これは、読むことと理解することを、脳が混同するからです。文字がスラスラ読める=内容が理解できた、とシステム1が誤解する。本当の理解かどうかを確かめるには、本を閉じて自分の言葉で説明してみるしかありません。「人に教えられるか」が、本物の理解の基準です。

② 「最初の印象」に引きずられる罠 ―アンカリング
模試で偏差値55を取った。「自分は55くらいの人間だ」と、その数字が頭に刻まれる。次に50を取ると「やっぱり自分はこの程度か」と落ち込む。

これがアンカリングです。最初に与えられた数字や情報が「錨(いかり)」となり、その後の判断を縛る。一度の点数があなたの可能性の天井ではありません。数字はあなたの現在地であって、あなた自身ではない。行きたい大学を目指せ!

③ 「努力しているから成長しているはず」という罠 ―確証バイアス
一生懸命勉強している。だから実力はついているはずだ―そう信じたい気持ちは自然です。しかしシステム1は、自分の信念を支持する情報ばかりを集め、反する情報を無視しようとします。
自分の信念を支持する情報といえば、AIの回答は質問した人に肯定的な回答を返してくる傾向がありますね。AIに相談するときは、確証バイアスに要注意です。

「なんとなくわかった」で終わっている演習、答え合わせで○をつけただけの問題。それは本当に身についていますか? 自分への問いかけが必要です。

では、どうすればいいのか

カーネマンのメッセージは「システム1を信じるな」ではありません。
システム1は私たちが生きていくために不可欠な、素晴らしい能力です。
彼の主張は、

「重要な場面で、立ち止まれ」

ということです。

学習の場面でいえば、こういうことです。

システム1に任せてしまいがちな場面 システム2を意識的に動かす習慣
 「読んでわかった気になる」  本を閉じて、白紙に書き出す 
 「解説を見てわかった気になる」  翌日、何も見ずに再挑戦する
 「なんとなくこの答えっぽい」  「なぜそうなるか」を言語化する
 「自分はこの程度の人間だ」  「今日の自分は昨日より何が変わったか」を問う

こういうことは、いつも先生から言われていることですね。

●最後に
みなさんは今、「考える力」そのものを鍛える場所にいます。

システム1の「なんとなく」に気づき、システム2の「待てよ、本当にそうか?」を発動させる。その習慣こそが、難問を解く力であり、受験という選択を超えて、これからの人生で本物の判断力になります。

「速く答えを出せる人」より、「立ち止まれる人」が、長い目で見て賢い。

脳は、楽をしたがります。でも、あなたはその脳の主人公です。

今日から勉強するとき、「これは本当にわかっているか?」と、一度立ち止まってみてください。

その一瞬の問いかけが、あなたの思考を、確実に変えていきます。
思考の論理エンジンを磨いていこう!

(参考:ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』村井章子訳、早川書房)