校長室ブログ

2026年3月の記事一覧

令和7年度修了式校長講話「ドーナツの穴から広がる「考える楽しさ」」


  【昇降口下の桜】

校内の桜が開花していますキラキラ
4月の入学式、始業式に歓迎してくれると嬉しいですね。

本日の修了式では、「議論の楽しさ」について、「ドーナツの穴だけ残して食べる方法」という本をもとにお話しました。

皆さん、こんにちは。
今日は1年間の最終日、修了式。一区切りをつけて、次のステップに向かうときです。この1年、学校生活をやり遂げた皆さんの顔を見て、私も清々しい気持ちです。本当によく頑張りましたね。

今日は皆さんに、「人と話し合うこと(議論)の本当の楽しさ」についてお話しします。

突然ですが、皆さんに一冊の本を紹介しましょう。大阪大学の研究者たちが、真面目に、かつ遊び心を持って話し合った、『ドーナツの穴だけ残して食べる方法』という本です。「そんなの物理的に無理だよ」と切り捨ててしまうのは簡単ですが、この本に登場する先生たちは違います。

* 数学の先生は、ドーナツの形(トーラス)のルールから考えました。
* 工学の先生は、穴を「空間」としてどう残すかを考えました。
* 美学の先生は、「穴があるからこそドーナツである」という存在の意味にまで踏み込みました。
一見、無駄に見える「問い」を本気で話し合うことに、どんな価値があるのか。3つのポイントでお話しします。

一つめ。相手の「メガネ」を借りて世界を見よう
「議論」と聞くと、相手を言い負かすことや、一つの正解を出すことだと思っていませんか? もしそうなら、それは大きな誤解です。
本当の面白さは、「一つの問いに対して、色々な見方が交じり合う瞬間」にあります。

自分一人では決して気づけなかった「新しい視点」を、友達の言葉を通じて手に入れる。それが議論の醍醐味です。自分とは違う意見に出会ったとき、「それは違う」とはねつけるのではなく、「なぜ、この人にはそう見えるのだろう?」と問いかけてみてください。その瞬間、皆さんの見ている世界の解像度はぐっと上がります。

二つめ。「知識」は自分の身を守る武器になる
本校で学ぶ皆さんが、本当の意味で話し合う力をつけるために、大切なことが2つあります。

一つは、「しっかりとした基礎学力」という武器を持つことです。
「なんでこんな勉強をするの?」と思うかもしれません。しかし、知識という足場がなければ、話し合いはただの「感想の言い合い」で終わってしまいます。皆さんが日々向き合っている数学の公式や英語の文法などは、将来、誰かと対等に話し合い、新しい価値を生み出すための「共通言語」であり、皆さんの「武器」なのです。

もう一つは、「知的誠実さ」という作法です。
これは、「わからない」を恐れない勇気のことです。話し合いの場で一番恥ずべきは、知ったかぶりをしたり、相手をやり込めることだけにこだわることです。自分の考えが間違っていたら素直に認め、相手の優れた意見を吸収する。この誠実さこそが、話し合いを良いものにします。

三つめ。「答えのない問い」を面白がろう
これからの社会では、AIがすぐに「もっともらしい答え」を出してくれるようになります。しかし、「自分たちで問いを立てること」や「納得できる答えを紡ぎ出すこと」は、人間にしかできません。
例えば友達と、「もし重力がなかったら?」という仮説を話し合ったり、歴史の出来事に対し「もし別の道を選んでいたら?」と想像したりしてみてください。
一人で机に向かう時間は大切です。しかし、その考えを誰かにぶつけ、揉まれることで、学びは初めて皆さんが使える知識となり、輝きを放つのです。

おわりに、この春休みという時間を使って、ぜひ多くの「問い」に出会ってください。そして、それを家族や友達、あるいは自分自身との対話につなげてみてください。
「ドーナツの穴」を真剣に論じる大人がいるように、皆さんも「正解のない問い」を愛せる人になってほしいと願っています。

1年間、本当によく頑張りました。4月、また一回り大きく成長した皆さんと再会できることを楽しみにしています。

第77回卒業証書授与式「式辞」

 

  お祝い卒業
 生徒が、立派に巣立っていきましたキラキラ
 式辞を送りました。

 校内の杜に、春の訪れを感じる今日の佳き日に麗風会会長の栗原 美恵子様、PTA会長の山本紀恵様をはじめとして、多数のご臨席を賜り、「第七七回卒業証書授与式」を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員にとりましても この上ない喜びです。
 心より 感謝申し上げます。

 ただ今、卒業証書を授与しました卒業生の皆さん、卒業 おめでとうございます。四年間にわたる 努力と成長に敬意を表します。

 思い返すと、6年前、新型コロナ感染防止の対応が始まりました。日常を取り戻した今となっては、昔のことのようですが、皆さんにとっては、大事な中学から高校生活にかかる頃です。大変な思いがありました。

 疾風に勁草を知る。苦難にあってはじめて、各自のよさがわかります。みなさんの成長につながるものであったと確信しています。
 卒業生の保護者の皆様、お子様のご卒業、心からお祝いを申し上げます。皆様には、PTA会員として、本校の教育活動に対し、温かいご理解とお力添えをいただきました。厚く御礼申し上げます。

 さて、卒業生諸君、これからをどうしていくか。
 皆さんの強みは、本校での学びにより様々な資質・能力を身につけていること。教科で学んだ知識をはじめとして、粘り強く、あきらめずに最後までやり遂げる力など、人間として大きく成長しています。

 そして、その知識・技能をもとに、自分の希望を実現するため、これから自分のやりたいことに 何でも挑戦していけること。挑戦しようと思えば、何度でも その機会があることです。

 しかし、それは同時に、まだ 何者でもない という弱みでもあります。

 就職する人は、そこで精一杯頑張ろうと決めているでしょう。進学する人はもう少し自分と向き合ってみて、将来を考えてみようと思っているかもしれません。

 ここで、私のことを少し話します。私は 大学を卒業して、民間企業に就職しました。しかし、数学の教師になりたいという思いがあって、その会社を辞めて教員採用試験を受けることにしたのです。

 会社を辞める時は、結婚をしていたし、小さな子もいました。そして就職超氷河期。そんな状態で、会社を辞めるとなったら、賛成してくれる友人や知り合いは殆どいませんでした。

 そんな中、高校時代の担任に相談しました。その担任である恩師は、「そんなにやりたいんだったら 頑張れ、お前なら いい教師になれるよ」、と励まし、応援してくれたのです。

 そして、「お前、覚悟はあるのだろうな」と言われたのです。覚悟、とは重い、重い言葉でした。また、私の妻も賛成して、応援してくれたのです。すばらしい妻だと思っています。私は、応援してくれる人がいて精一杯、頑張ることができました。

 その後、教師になって、本当によかったと思っています。今日ここでこうやって、皆さんに、式辞を送っています。皆さんの卒業を祝福することができて、とても幸せです。皆さんとの出会いに感謝申し上げます。

 まだ、何者でもない皆さんは、卒業後、様々な経験を積む中で、更に成長していきます。ひょっとしたら、今は意識していないような「本当になりたいもの」があるかもしれません。

・ここで、神戸女学院大学の内田樹さんの話を紹介します。

・スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式の祝辞で こう言いました。「一番大切なのは、あなたの「心と直感」に従う勇気だ。なぜなら、あなたの「心と直感」は、あなたがほんとうは何になりたいのかを知っているから。」

・内田さんは、ここで大切なのは「心と直感」ではなくて「それに従う勇気」だと言います。

・勇気が要るのは「あなたが 本当になりたいもの」になろうとすると、周りの人がおおかた反対するからです。心と直感に従うことを、周り中が賛成してくれたら、勇気なんか要りません。「そんなこと止めろ。力づくでもとめるぞ」とみんなが言うから、それに抗うには勇気が要るのです。

・この内田さんの話は、私の経験から「なるほど、そうだよな」と思うところがありました。「自分で、これいいな、やってみたいな」と思っても、今を考えると躊躇することが多いものです。自分の心と直感にしたがう勇気は、なかなか出しにくいかもしれません。

 保護者の皆さま、お子さんが自分の気持ちを伝えに来たときは、背中を押して、応援してあげてください。

 人生は平坦ではありません。
嬉しいこと、楽しいことがある中で、どうしようか悩むこともありますね。
 最後は、自分のことは、勇気と覚悟をもって、自分で決めるのですが、その前に誰かに相談できるとよいですね。


 みなさん、迷ったり、困ったら相談をしにおいで。一女定時制の先生は応援しています。そしたら、その応援に応えるように、また頑張れるでしょう。

 ゲーテのこんな言葉もあります。「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道が見えてくる」。
 言葉は、その時の気持ちを支えてくれたり、勇気づけてくれたりします。


 本校の卒業生は皆さんを加え、三四、九三三名となりました。およそ三万五千人の一女卒業生が、社会を支えています。

 みなさんも、そんな卒業生の仲間入りです。卒業生同士のつながりも大事にしてください。

 日本は、課題先進国といわれ、超高齢化社会が世界最速で進んでいます。人口減少や産業構造の変化もあります。AIなどの技術革新が速く、これから学ばねばならないことがたくさんあります。

 次の世代を支えていくのは、皆さん。これから、一緒に頑張っていきましょう。

 皆さんの これからの着実な歩みを 心から願いまして 式辞といたします。

 令和八年三月十三日
 埼玉県立浦和第一女子高等学校長
 山﨑 正義